2009年08月05日

REQUIEM

ああ、何ということだ。
何が起こったというのだ。
今日も空には太陽が輝き、雲はゆっくりと流れ、
鳥は木漏れ日の中で楽しげに囀っているというのに、
あなただけがいなくなってしまった。

信じられない。
こんなことは起こるはずもない。
そうか、誰かが悪ふざけをしているのかもしれない、
そうでなければ私は夢をみているのだろう。

嘘だと思いたい、何かの間違いだと。


あなたは何処へいった。
あなたは今、何処にいる。

いつも一緒に歩いたこの道。
木枯らしに冷たくなった私の手を暖めてくれた大きな手は、
もう、ここにはない。
日が暮れるまで遊んだ広場。
夢中で追いかけたあの背中は、もう見えない。

昨日の優しい微笑みに、もういちど会いたい。


激しい雨が窓をたたく夜が恐い。
心臓の音だけが聞こえる深い深い闇の夜が恐い。
恐ろしくて心細くて、あなたを求めるけれど、         
暗闇の向こう側に、一筋の光さえ見えない。                    
                              
運命は何ゆえに愛する者たちを分かつのか。            
大切な人を奪って、満ち足りた時を引き裂いた、
私に絶望だけを残して。

どうして、こんなことになった。
どうして私はこんな想いをしなければならない。
誰が悪かった、何がいけなかった。
わからない、わからない、わからない、わからない。


肉体がいつか滅びさってしまうのならば、   
魂は何処へ向かっていくのだろう。
安息を求めて天へと旅立っていくのか。
そこに痛みや苦しみのない、
安らぎに満ちた世界が待っているのであれば、     
私は祈る。
どうか、私の愛する人を受け入れて下さいと。


厚い雲が空を覆いつくし、雷鳴が轟いても、
いつかはその雲の切れ間に、眩い光が射す。
やがて、夜空には星が姿を現し、
生まれたての朝が訪れる。

今日をはじめる朝の光に、静かに眼を開ければ、
全てを受けとめた新しい私に気づくだろう。

――――――――――――――――――――――――――――――――――

PG の振り付けとは感じさせずに、
楽曲そのままを体現してみせた安藤美姫の「 REQUIEM 」。
そこには決められたエレメンツを、
教えられた通りにするだけのスケーターではない安藤選手の姿があった。


暗めの照明にピンスポットで浮かび上がった安藤選手の端正な顔立ちを
影が縁取る。神々しいほどの美しさだ。

Jr.時代の EX、恐らく「カルメン」だったと思うのだが、当時の、
無垢で恐いもの知らずの眼ぢからに、はっとさせられたことがあった。
「 REQUIEM 」では、
絶望の淵から幾度も這い上がってきた者だけが持つ、
凄みさえ漂わせるその眼に、哀しみや怒りが感じられた。
そう、観ているこちらが息苦しくなるほどの圧倒的な力で。

自信に満ちた、というと安藤選手は謙遜するかもしれないが、
少なくとも揺るぎない何かを得たようにみえたのだ。


心の奥底から湧き上がる感情。
それを演じきらせた、安藤選手のなかにある揺るぎない想い。

安藤美姫の「 REQUIEM 」は創られるべくして創られた、崇高な作品だといえる。

空高く、天へ捧げた祈りとして。

posted by マキティ at 23:32| Comment(4) | TrackBack(0) | 安藤美姫 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
いつもすばらしい表現の文をありがとうございます。英詩もすばらしかったです。

安藤選手のレクイエムは本当にすてきなプログラムですね。荒川静香さんも「年々とても上手になっていく」とおっしゃっていましたけど、本当にそのとおりですね。
真摯でエモーショナルな滑りが見る者の心を打ちます。『祈り』に近いスケーティングですね。

娘は、「ミキティは、お友達の中にいても、きっと楽しい子だと思う。ずっと楽しく話していられるような…。お友達にも気配りができて、場を明るく盛り上げていける子だと思う」 と言います。

オリンピックシーズンが、彼女にとって心おだやかに楽しく滑ることができるシーズンであることを祈っています。
Posted by 瑛日 at 2009年08月08日 03:42
瑛日さん、こんにちは。

今回は PG の内容を、
演技としてではなく、情景、感情を表わす言葉に置き換えて、
表現してみました。
美姫ちゃんの想いと、私の解釈にはズレがあるとは思いますが、
その辺りはご容赦願います。

瑛日さんのように、美姫ちゃんのために暖かいお気持ちで
祈っておられる方にコメントをいただくたび、
本当に嬉しく思います。
お嬢様にもどうぞよろしくお伝え下さいますように。ありがとうございました。
Posted by マキティ at 2009年08月08日 10:55
美姫ちゃんのレクイエム、素晴らしいプログラムですよね。それをみんなに伝えられるような素敵なブログ、心にグッときました。
あの幻想的なプログラムは、まだ21歳の女の子には少し早いかなぁと思う方も多いかと思います。
確か、美姫ちゃんのスケート人生の悲劇の始まりは、トリノオリンピック。日本代表としての自覚がなかったと話す今シーズンの美姫ちゃんには、あのプログラムはふさわしいかと私は思います。
美姫ちゃんは、きっと、このプログラムをスケート入会と同時に交通事故で亡くなったお父様にささげているのかなぁとも思います。トリノシーズンのSP『戦場のメリークリスマス』は、お父様にささげると言うことでしたね。そして、お父様を思って美姫ちゃんは涙をながしたそうです。
そして、またオリンピックシーズンが始まりました。
あの、美姫ちゃんにしかできないレクイエムという素敵なプログラムを、ぜひ、お父様に空から見てもらいたいですね。
Posted by やっほー at 2009年08月18日 11:18
やっほーさん、こんにちは。

人は誰でも、心の奥に哀しみや怒りを封印して生きています。
スケーターは、時に封印を解いてでもこれらの感情を表現してみせますが、
それは恐らく思った以上に辛いことだと想像します。
辛い想いを乗り越えた者には、人の心を揺さぶる力があります。

「 REQUIEM 」に多くの方が感動するのは、
いくつもの苦しみを乗り越えてきた安藤選手のこの楽曲に込めた想いを感じるからでしょう。
Posted by マキティ at 2009年08月20日 23:03
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